テナントビルは、複数の借り主が借りるマルチテナントビルとなることが多いです。
オフィスは住宅とは異なり、各テナントが様々な面積を借ります。 たとえば、3フロアをまとめて借りるテナントもいれば、半フロアしか借りないテナントもいます。
オフィスの賃料は、用途が事務所の場合には住宅のように階数や方角による賃料差はない点が特徴です。 高層階になるほど賃料が高くなるわけではなく、南向きだから高いといったこともありません。 階数や方角による需要の偏りは、ほとんどないといえます。
なお、用途が店舗の場合には、階数によって賃料単価に大きな差が生じます。
店舗は1階の賃料単価が最も高く、2階以上や地下階は急激に賃貸需要が弱まり賃料単価も大幅に下がります。 良い立地でない限り、2階以上や地下階は店舗を誘致できないことも多いです。
テナントビルでは、貸主に共益費や付加使用料の収入があります。
共益費とは、共用部の維持管理に必要な費用のことです。
付加使用料とは、専有部分でテナントが使う水道光熱費のことを指します。
テナントビル経営の流れについて解説します。
オフィスビルを計画するには、十分な市場調査を行うことが極めて重要となります。
理由としては、オフィスの賃貸需要は全国的に弱まっているからです。
近年は、全国の県庁所在地や政令指定都市でも、オフィスを新築するとテナントを決めるのに極めて苦労している事例をよく見かけます。
オフィスの賃貸需要は、新幹線や飛行機などの交通機関が発展したことで地方に支店を置く企業が減り、弱くなりました。 ここ数年では、就労人口が減少し、さらにリモートワークなども普及したことから、オフィスの賃貸需要は都内でも弱くなっています。
上記理由により、オフィス経営は、かなり条件の良い立地でないと成立しにくい土地活用となってきているため、十分にニーズを把握した上で計画することが重要です。
オフィスビル経営は慎重に検討すべきであるため、ビジネスホテルやワンルームマンションなどのほかの用途とも比較しながらプランを決定することが適切といえます。
「中心市街地だからオフィス」ということは決めつけず、将来的なニーズも踏まえた上で見極めることが望ましいです。
オフィスビルとしての勝算が十分に見込めたら、施工会社と請負契約を締結し、工事に着工します。
施工会社と請負契約を締結する際は、施工会社や設備業者、施工会社がよく使うメーカーなどに計画建物(実際に建てる建物)の賃貸ニーズがないかを確認することをおすすめします。 また、ローンを組む際も、銀行に計画建物を借りてくれそうな企業を知らないか聞いてみるのも一つです。
オフィスビルは、竣工前からリーシング活動(テナントを誘致する活動)を行うことが通常です。 テナントに分かりやすくビルの良さを伝えるために、パンフレットやホームページを作成してセールスしていきます。
オフィスビルは、オフィス専門の仲介会社に仲介を依頼することが多いです。
ただし、地方都市では仲介会社に依頼しただけではテナントがなかなか決まらないことも多く、自力でテナントを借りてくれる企業などを探さなければならないこともよくあります。
自力でテナントを誘致する際は、パンフレットやホームページが役に立ちます。
竣工したら、テナントビル経営の開始です。
竣工時点で満室スタートできなかった場合には、引き続き、テナントが決まるまでリーシング活動をする必要があります。
オフィス経営の効果的な戦略について解説します。
オフィスを計画する際は、空間を有効活用できる“間仕切り可能なプラン”とすることが適切です。 ワンフロアの専有面積が100坪の場合、たとえばその空間を20坪ずつ分割できるようにしておくことが望ましいといえます。
とくに地方都市の場合、大きな面積を借りるテナントよりも小さな面積を借りるテナントの方が多いです。 仮に20坪のニーズがあっても、20坪の間仕切りに対応できないとテナントのニーズを捉えることができず、貸せないことになります。
間仕切りができるようにするということは、当初から各フロアに中廊下を設け、想定される分割ラインで個別の入口も設けておくということです。 空調や照明に関しても、間仕切りラインで個別に電気代を計量できるようにしておく必要があります。
オフィスビルは、省エネ仕様にすることが効果的です。
テナントビルは、付加使用料という形で借り主が貸主に対して電気代を支払います。 借り主からすると、オーナーに支払う付加使用料は直接電力会社から請求される金額ではないことから、不透明感がある費用です。 付加使用料は高いと感じるテナントも多く、付加使用料を節約したいという借り主のニーズはよくあります。
省エネ仕様のビルは、付加使用料が抑えられそうなイメージがあるため、テナントを探している借主に良い印象を与えることが多いです。 入居者の獲得に繋がりやすくなることから、オフィスビルは環境に配慮した省エネ仕様にすることが望ましいといえます。
テナントビルは、専有部分を無柱空間(専有部内に柱が出てこない空間)で計画することが望ましいです。 専有部内の柱はテナントがレイアウトを計画する上で大きな障害となることから、極端に嫌われる存在です。 そのため、テナントに貸しやすくするには、専有部分は無柱空間とすることが適切となります。
なお、無柱空間とするには柱と柱の距離を長くする必要があり、その分、梁(はり:柱と柱を繋ぐ横架材)を太くすることが必要です。 梁を太くすると、建築費がアップしてしまいます。
ただし、建築費がアップしたとしても、将来的なビル経営のことを考えると、無柱空間にすることは非常に価値があります。 専有部分を計画する際は、無柱空間にこだわることをおすすめします。
以上、テナント・オフィス経営について解説しました。
土地活用としてのテナント・オフィス経営は、「マルチテナントビルとなることが多い」や「階数や方位による賃料差はない」、「共益費や付加使用料の収入もある」ことが特徴です。
テナントビル経営を始めるには、最初に十分な市場調査を行うことがポイントとなり、オフィスビルの仕様は、「間仕切り可能なプラン」や「省エネ仕様」、「無柱空間で計画する」ことが効果的な戦略です。